中国の昔話・「何首烏」

2018-06-21

漢方薬剤の何首烏は、多くが山や川、あるいは湖などに産するといい、一部は人の住むところにも産すると言う。それに一部の何首烏の形は人間に似ているものが多く、人間の精気を受けて魂なるものが宿り、勝手に動き、姿を現したり消えたりするという。このような何首烏はほんとに珍しく、もし手に入れて口にすれば仙人になれるといわれていた。

これはかなりむかしのこと。何という一家がいて、そして夫婦と息子夫婦の四人暮らしだった。夫と息子は一年のうち半分以上は外で働き、家では姑とその嫁が機を織り、できた布を少しの金に換えて日々をしのぎ、機織りはいつも夜半まで続いていた。

と、ある秋の月夜。家の中で機織りをしていた嫁は、庭から小さな子供が話す声が聞こえたので、姑にいう。

「お母さん、庭に誰かいますよ」

「ええ?庭に」

これに姑は、怪訝な顔して耳をすまし、本当に子供の声が聞こえたので、二人は何だろうと庭に出てみたが、誰もいない。気のせいだと思って二人が家に入り機を織り始めると、また同じ様な声が聞こえてくる。

そこで嫁が戸の隙間から外をそっと覗くと、小さな男の子と女の子が庭の垣根の中から走り出てきて、月の光の下で小さな声を出しながら遊んでいる。

これを見た二人はこんな夜中にどうしたことか不思議がったが、姑が「あれはきっと魔物の子供だよ。もし怒らしたりしたら、ひどい目にあうかもしれないよ」と首をひそめた。そこで妻も恐ろしくなり、二人は庭に出る勇気もなくそのままじっとしていた。やがて庭は静かになったので嫁が恐る恐る庭を覗くと二人の子供の姿はもうなかった。二人は安心し、やっと寝床に就いたという。

さて、次の日、医術の分かる嫁の親戚が訪ねに来たので、嫁は昨夜の出来事をその親戚に話した。するとその親戚はしばらく考えたあという。

「この庭に魔物が住み着いたとすれば、あんたたち一家がこれまで無事に暮らせるわけがない。その二人の子供とは、きっと不思議な効き目のある薬剤が人間の姿になって出たものだ」

「ええ?不思議な効き目のある?」

「でしょうな。もし、その薬剤を手に入れてから蒸して口にすれば長生きできるかもしれませんぞ」

これを聞いた姑は笑って応える。

「でも、庭に出て行くと姿かたちを消してしまうんですよ。捕まえられるもんですか」

「捕まえるのはそんなに難しくはありませんよ。米は天と地の生気を集めてできているので、米を使えばきっと動けなくなるでしょう。」

「ええ?お米で?」と嫁が驚いて聞く。

「そう。ですから、かの二人の子供がでて来たときに、近いところから何とか米を投げつけ、子供の体に当てなさい。そうすれば捕まるでしょう」

これを聞いた嫁と姑は、親戚が帰ったあと相談し、近くの竹林で竹を手ごろな長さに切ったあと、中の節に穴を開け、そこへお米を入れて、投げつけるように振るしぐさを繰り返し、中の米が遠くへ投げ飛ぶようになったのを見てこれでいいだろうと思った。さっそく、この夜は姑が機を織り、嫁がかの米の入った竹を手に、戸の隙間から庭を見張っていた。

もちろん、相手が不思議な効き目のある薬剤だと聞いたので怖いとは思わなかった。

やがてこの夜も月が出てきた。姑は機を織りながら庭で物音がするかどうか耳を傾け、嫁は戸の隙間から庭をにらんでいたが、そのうちにまたも垣根の中から二人の子供が出てきて、庭の真ん中で遊びだした。これを聞いた姑が機を織る手を止めずに、嫁に眼で合図すると、妻はこっくりうなずぎ、眼を細めたあと不意に戸を開けて手にしていた竹を子供の方に思い切り振った。こちら二人の子供は急に戸が開いたので、ぎょっとして戸のほうを見たが、そのとき竹から投げ出されたお米が二人の足に当たった。これを見た嫁と姑、庭に飛び出し、その場でもがいている子供を押さえつけたところ、子供は不意に小さくなり、硬くなって動かなくなった。そこで姑が家から明かりを持ってきて照らしてみると、子供はなんと木の塊みたいなものに変わっていて程よい香りがする。

「お母さん、これがあの親戚が言った不思議な効き目のある薬剤ですよ」

「そうみたいだね。こうして手に入れられてよかったね」

「ところでお母さん。これをどうします?」

「そうだね、どうしよう?」

「あの親戚は、蒸して口にすれば長生きできるといったでしょう?」

「そうだね。どうせ毒じゃないので、蒸したあと食べてしまおうか?」

「そうしましょう。そうしましょう」

ということになり、嫁とその姑はさっそく、それを洗って鍋で蒸したが、どうも硬い、これじゃ食べられないと、また蒸したがまだダメ。そこでやわらかくなるなで五回も蒸して、やっと食べられるようになった。そこで二人はこれを口に入れた。

「うん?おいしいですわね、お母さん」

「そうだね。思ったよりもおいしいね」と二人は瞬く間にこれを腹に収めてしまう。そしてこの夜はそのあと寝てしまった。翌日は二人、朝からお腹がすかず、昼も同じで、とうとう三食抜き。また、夜遅くなっても空腹を覚えず、二人は首をかしげたあと、仕方がないと横になって寝てしまった。

さて、翌々日の朝、この二人は起きる様子がない。昼ごろになってもこの家からは誰も出てこないので、付き合いの多い近所のおばさんが、「今日はどうしたんだろう、いつもだったら、隣の嫁が機で織った布を町に売りに行くのに。今日はうちの前を通らないね」、と首をかしげていた。そして午後になっても、嫁と姑は家から出てこないので、これは何かあったねと、この隣のおばさんが訪ねに行った。

「お隣さん!今日はどうしたのかね?お休みかい」

これには返事がないので庭に入って家の戸を叩いてみたが、なおも返事がない。これはおかしいと思ったおばさん、戸を力いっぱい押し開けて中を見ると、この家の嫁と姑がまた床で横になって小さな声でうめいていた。そこで床に近づき見ると、なんと嫁と姑は二人とも顔と体が腫れだし、口もきけないまでになっていた。

これは大変だと、おばさんは、家に帰って息子に医者を呼びに行かせ、また、自分の夫に何とかしてこの家の夫と息子にこのことを知らせるようにいう。

さて、医者がきて嫁と姑に薬を飲ませたところ、少しはよくなった。と、翌日、このことを聞いて驚き帰ってきた夫と息子は、何がなんだか分からないので、医術の分かるかの嫁の親戚を家に呼んで見てもらったところ、この親戚はこういう。

「ははは!お二人は病にかかったのではない」

「え?病ではない?」

「そう。実は先日、人の姿に変わった薬剤を見たというので、私はこれを捕まえて煮て食べれば、長生きできると教えたのでござる。どうも、二人はこれを煮て食べたようござるな。しかし、あの薬剤は九回煮なければ食べることはできん。それに鉄の鍋で煮ることもできないということを私が言うのを忘れておった。これはすまないことをしましたな。ま、二人はすぐに元通りになるので安心なさい。いまから、特別の解熱と解毒の薬を飲ましますから、数日後にはすっきりよくなりますよ」

これを聞いた夫と息子は安心した。

こうして嫁と姑はよくなったが、そのときから二人はこれまでより元気が出てきたばかりが、六十を過ぎていた姑の白髪がなくなり、顔の皺もきれいに消えてしまって四十前後に見え、、また、四十前後だった嫁の髪の毛も黒々としてつやが出始め、顔も若くなりなんと二十を過ぎたばかりの娘のように見えた。

そしてこの二人は、その後百歳あまりまで元気に過ごしたという。

ところで、何首烏の首烏という二字ですが、中国語では首とは頭、かしらという意味、烏とは鳥のカラスという意味と黒いという意味などがあります。ですからここでは、黒いという意味。というと、これは何の苗字のつく人の頭の毛、つまり髪の毛が黒くなったということで「何首烏」という名前が、後にこの薬剤につけられたという話もあります。はい。そういうことでした。

「中国国際放送局」より

中国国際放送局

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