中国の昔話・「医者と狼」

2018-06-24

かなり昔のこと。毛大福という医者がいて、ある日、遠いところに往診にいった。その帰りの山道で、なんと一匹の狼と出くわしたので驚いて逃げようとしたが、その大きな狼は動きがすばやく大福の逃げ道を塞いでしまう。どうしても逃げられない大福は天に向かって叫んだ。

「ああ!わたしは今日、こんな山道で命を落とすのか!なんとくやしい!

諦めた大福が、覚悟して涙を流しながらそこに座り込むと、なんと狼は横の草むらからある袋を咥え出し向かい合って座った。

「うん?どうしたんだ?これはわたしを食おうというのではないらしいな」

みると、狼は鋭い目で大福を睨んでいるのではなく、優しい目をして尻尾まで振っている。そこで相手がわかろうか、わかるまいか大福は思い切って声をかけてみた。

「狼よ!私を食うのではないのなら、何か用があるのか?」

すると狼は人間の言葉がわかったように、ゆっくり大福の前にやってきて口に咥えた袋を地面に置いた。

「うん?なんだ?これをわたしにくれるというのか?」

狼が尻尾を振っているので、大福は思い切って袋に手を出し、それを開けてみた。すると中から首飾りと腕輪など金になるものが出てきたので大福はびっくり。

「こ、これをわたしにくれるのか?」

これに狼は首を縦に振っている。そこで大福が首をかしげていると、狼は、その場で何度か飛び跳ねたあと、大福の袖を噛んでどこかへ引っ張っていこうとする。なにがなんだかわからない大福が立ち上がると、狼はまた大福の袖を噛み引っ張る。これを見て大福は、狼が自分に頼みがあるので、金目のものを渡すから、来てくれといっているのがようやくわかった。そこで大福は袋をもって狼のあとについていった。こうして林や山道をとおり、崖の下の洞穴にやってきた。大福が狼に続いて中に入ってみると、奥の方に草が敷いてあり、その上でもう一匹の狼が横たわり、悲しい目をして唸っている。

みるとこの狼は雌らしく、なんと頭に大きな出来物ができ、なんと膿が出ているばかりが、蛆虫まで付いていた。これはひどいと大福はさっそく狼の前にしゃがみこみ、医療箱を開けて道具や薬を取り出して蛆虫を殺し、膿をきれいに搾り取り、薬を付け包帯までしたので、痛みが取れたのか、その雌の狼は安心して目をつぶったようだ。これを横で見ていたかの狼は、大福がそばに置いた首飾りや腕輪の入った袋を咥え、また大福に渡して尻尾を振ってくんくん鳴いている。喜んでいるのだろう。この袋の中の物はお礼だと言いたそうなので、大福はこっくり狼にうなずき、洞穴を出た。

「うん。患者は狼だったが、それでも手当したんだからよかった」と思って帰ろうとしたが、来た道がわからない。これを察したのか、狼が先に行くのでこれは自分を帰すための道案内だと思い、大福はそれについていった。やがで自分がこの狼に出くわした山道にたどり着いた。するとそこには何匹ものほかの狼がうろうろしており、大福がやってきたのを見て一斉に襲い掛かろうとした。大福はびっくり仰天。これは助からんと思ったが、そのときかの狼が、牙をむき出し、これら狼を追い払ってくれたので、大福は安心して家に帰ることが出来た。

さて、次の日、大福は狼から貰った首飾りや腕輪を金に換えるため町の質屋に入りものを取り出していると、近くに一人の女と二人の下役人風の男がいて、その女は大福が袋から出した首飾りと腕輪をみて叫んだ。

「それです!それが実家に忘れてきたわたしの首飾りと腕輪です!」

当の大福は、この知らない女が自分が取り出したものを見てこう叫んだものだからびっくり。すると横にいた二人の下役人風の男が、なんと大福を縛り上げ、「おまえか!役所までこい!」といって外に引っ張り出した。

大福は何のことがさっぱりわからず、叫んだ。

「いったいなんです!どうしてわたしを捉えるのです!私は何も悪いことはしていませんよ!」

「つべこべいうな!言い訳があるなら、役所で言え!早く歩け!」

こうして大福は役所に引っ立てられ、無理やり県令のまえに跪かされた。大福は必死である。

「申し上げます!わたし大福は何も悪いことはしておりません。どうしてわたしをここに引っ立てるのでございますか?」

これを聞いた県令はニヤニヤしている。

「ふふふ!そう騒ぐな!お前が下手人であることははっきりしておるのじゃ!」

「なにがはっきりしているのですか?」

「お前が人を殺し、金目の物を奪ったことじゃ」

「えっ?わたしが人を殺して金目のものを奪った?」

「ばかもん!お前が質屋で金に換えようとした首飾りと腕輪が証拠じゃ!」

「ええ?!」

大福はこれを聞いてめまいがした。で、そこにはことを調べるため上から役人がきていたので、県令はこの役人に事情を話してから大福の罪状を並べた。

実は、大福が狼を助けた二日前、地元の寧泰という商人が、旅の帰りに妻の実家に立ち寄って土産をわたし、ついでに妻が先月実家に戻ったとき置き忘れた首飾りと腕輪を持って家に帰るその途中で何者かに殺され、金目のものがすべて奪われた。翌日、夫が帰ってこないので何かあったと商人の妻が役所に届けたので、役人たちが調べに出ていた。すると郊外で人が殺されたという知らせが入り、役人たちが妻を連れて行き、殺されたのが商人だということがわかった。そして商人の妻が何を奪われたかを言ったので、下役人が次の日に商人の妻を連れて質屋などで見張っていたところに、大福が質屋にきて、その質に入れるものを商人の妻がみて、これは奪われたものだと証言したのである。

これを聞いた大福は、とんでもないと必死になり、自分がどうして首飾りと腕輪をもっているわけを話した。ところが、狼からそれを貰ったなどと県令たちは信じない。そこで大福がうそはつかないと申し立てたが、県令は大福は人を馬鹿にしていると決め付け、すぐに処刑をまつ牢屋にぶち込んでおけと命じた。

もちろん大福は自分は悪いことはしていないと泣き叫ぶ。すると、それまで黙って大福の表情を見守っていた上から来た役人が、県令に何か耳打ちした。

すると、県令はしぶい顔をしたあと下役人に、「こやつと一緒に山に入り、その狼とやらを捜しに行け」と命じた。これを聞いて大福はもっともだと思ったが、狼を探しに行けと命じられた二人の下役人は目の色を変えた。が、県令の言いつけだから仕方がない。そこで大福を連れ、かの大福が狼に出会ったところにきてかなり待ったが狼は出てこなかった。しかたなく来た道を戻っていると、なんとかの二匹の狼に出くわした。驚いた下役人が逃げようとするが、縛られている大福が、一匹の狼の頭に包帯がしてあるのを見て、助けたのはこの狼で、首飾りなどをくれたのはもう一匹の狼だと役人を引き止めて必死にいう。しかし、二人の役人は恐ろしくてその場に突っ立ったまま。こちら二匹の狼は大福を覚えていたのか、襲ってはこずにこちらを見ているだけ。そこで大福が狼に一礼していう。

「これは狼どの。あんたの妻の頭の出来物をわたしが治し、お礼として首飾りなどを貰ったけれど、そのためにわたしは罪をかぶされましたぞ。もし、あんたらが証明してくれなければ、私は処刑されあの世行きとなるのでなんとかしてほしい!」

これを聞いたかの二匹の狼、命の恩人である大福が縛られていることに気付いたのか、大福らめがけて突っ走ってきた。これをみた役人はあわてて刀を抜き構えた。こうして双方はにらみあっていたが、そのうちに狼が大きく吼えた。すると遠くから同じく狼の吼える声が聞こえ、なんとあちこちから狼がやってきて

あげくは百匹近くの狼がここに集まった。これに下役人だけでなく、大福すらも震えだした。するとかの二匹の狼が大福に飛び掛り、なんと縛ってある縄を噛みちぎろうとする。これを見た下役人は、大福の縛りを解かないと狼たちにやられると思ったのか、狼をしりぞけ、大福の縛りを解いた。

すると見た狼たちは、吼えるのをやめてそれぞれどこかへいってしまった。こうして二人の役人は冷や汗かきっぱなしで大福を連れ役所に戻り、ことの仔細を県令に報告した。これに県令は驚き、さっそくかの上から来た役人を呼び、ことを話したところ、この役人は、まずは大福を痛めつけずに牢屋に入れておくよう県令に勧めた。

こうして何日かたったある日、この上から来た役人が用があって郊外まで行くと、なんと一匹の狼が片方の靴を咥えてどこからか出てきて、この役人の見えるところに靴を置いてどこかへ行ってしまった。

「うん?何だあの狼は?」とその靴を拾い、これには何かあると思い役所に持ち帰った。そして県令にこの靴を渡し、ことの仔細を話したあと、この靴の持ち主を探すよう県令にいう。そこで県令は数人の部下をやってこの靴の持ち主を探させた。

その数日後、一人の部下が役所にもどり、ある村の叢薪という男が数日前に、二匹の狼に追われ、もう少しで食われるところを何とか逃げ切ったものの、片方の靴を狼にさらわれたと報告してきた。そこで県令はこの叢薪という男に片方をさらわれたという靴をもって役所にこさせた。そして持ってきた靴と狼が置いていった靴とはまったくの一足であることがわかった。そこでこの叢薪をきつく尋問したところ、この男は自分が金ほしさに、かの商人を襲って殺し、金目のものを探すと首飾りと腕輪が出てきたのでそれを持って逃げる途中で、なんと二匹の狼に出くわし、ひどく慌てていたいことから腰につるしておいた首飾りと腕輪を入れた袋を落としてしまい、河に飛び込んで逃げたとを白状した。つまり、奪ったものは狼が持ち帰ったのである。そして大福がありもしない罪をかぶせられたことを知った狼は、首飾りと腕輪は叢薪が持っていたので、ある日、叢薪を待ち伏せして襲い、靴を脱ぎ落としたことから、その靴をかの上から来た役人に拾わせたということもわかった。

こうして商人を殺した下手人を捕らえたので、罪なき大福は牢屋ら出され、お構いなしということになった。もちろん、叢薪は人殺しと盗みの罪で打ち首となった。

こちら、無事に家に戻った大福は、自分を助けてくれた狼にお礼をしようと、次の日にかの初めて狼と出くわした山道に、家の鍋で煮た二羽の鶏を置いておいた。

さて、それから数日たったある日の夜。家の庭の方の物音に目を覚ましたが、「こんな夜中に誰も訪ねてくるはずがない。そして誰か来たとすればそれは泥棒だろう」と思い、さっそく包丁を手に息を殺して家の中から外の様子を伺っていた。そして誰も家の中に入って来ないし、外が静かになったので、そのまま寝てしまった。

次の朝。昨夜はいったい何者だろうと、大福が用心のため、包丁を手に庭に出てみると、庭にある石の机の上に死んだ雉や魚が沢山積まれていた。

「ありゃあ?誰だ?こんなに多くのうまいものを置いて行ったのは?」

大福は暫く考えていたが、そのうちにこれらのものはかの二匹の狼がくれたものだということがわかり、「ありがとう、狼」と叫ぶと、大喜びでこれらのものを家の中に持ち運び、その夜早速料理にして妻や子供と一緒にたらふく食べたという。はい、おしまい!

「中国国際放送局」より

中国国際放送局

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