中国の昔話・「弓術」

2018-07-16

清の怪異小説集「聊斎志異」から「弓術」というお話をご紹介しましょう。

いつのことかわからんが刑徳という男がいた。刑徳は幼いときから弓を習い、自分もいろいろ工夫し、かなり上達したので、刑徳にかなうものはいないとまで言われた。しかし、運が悪いというのか、刑徳は弓を使って食べていける仕事が見つからず、人から金を借りて商いをしても損ばかりし、豊かな暮らしは出来なかった。で、刑徳には友が多く、どうしたことか、刑徳の弓の腕を頼みに町の商人たちがしばしば用心棒になってくれと頼みに来た。

と、ある秋、刑徳は一人の商人の用心棒をしたあと、かなり金をくれたのでこれで商いをしようと思い、易者にこれからは儲かるかどうかを占ってもらった。そこで易者はいう。

「ふん、ふん!これから商いと始めようとされるとね。うん、しかし、あんたの商いは、・・・実を言うと儲かりはしませんぞ」

「え?儲からない?」

「そう。が、たいした損はないでしょうな」という。これを聞いた刑徳、家に帰って不機嫌な思いでいたが、貰った金を返すわけにもいかないので、仕方なく、金を持って旅に出た。で、目的地に着いたが、どうも事がうまくいかず、ものを買って半分金を残し、面白くないので気晴らしに馬を借りて郊外に出かけた。かなり行ったところに酒屋を見つけたので、馬を下りて店に入った。そして酒を注文し、適当なつまみで飲んでいると、角の席で一人の老人と二人の少年が酒をのみ、その横にやまあらしのように髪の毛を生やした子供が立っていた。注意してみると老人と少年の身なりはよく、「これはかなり持っておるな」とみた刑徳は黙って老人らの様子を伺っていた。しばらくして老人らは飲み食い終わり、銭を卓において店を出て行った。そこで刑徳が窓から外をみると、少年が馬小屋からラバを引いてきてそれに老人がのり、やまあらしのような髪をした子供が痩せた馬に乗って老人のあとを追い、二人の少年がそれぞれ弓矢を背負い、馬に乗りそれについていく。これをみた刑徳は、急に金がほしくてたまらなくなり、自分は弓の名手だと思って、さっそく杯を置くと小銭を卓上において店を出たあと、自分も馬で老人たちのあとを追った。

さて、暫く馬を走らせると、前を行く老人たちの姿が見えた。そこで馬に鞭を当てて刑徳は老人たちの前へ行き馬を止めるとくるりと振り返り、弓矢を取り出して老人を狙った。すると老人は少しも慌てず、腰を曲げて左の靴を脱いで笑った。

「ははは!おまえさん、何をしようというのじゃね?このわしを知らんのかね?」

これに刑徳は答えず、すばやく矢を放った。しかし、老人は何事もなかったかのようにわずかに体をうしろへ傾け、靴を脱いだ足を上げて、なん、刑徳が放った矢を足の指で挟んで受けとめたではないか。これに刑徳は驚いた。そこで老人が言う。

「そんな子供だましの技に答えるには、このわしでは大げさすぎるのう」

これを聞いた刑徳は、顔を真っ赤にして、よし、みてろと得意の技を出し、シュッ!シュッ!とものすごい速さでいくつかの矢を続けて放った。すると老人は飛んできた一本目の矢を右手でつかみとり、二本目の矢を防げなかったかのように、なんと乗っているラバから落ちた。

「やった!」と刑徳は喜んだが、よくみてみると老人は地面に倒れながら二本目の矢を口にくわえ、すばやく飛び起き刑徳にいう。

「なんと、お前さんはわしとは初対面だというのに、礼儀というものを知らんなあ」

これに刑徳、びっくりして怖くなり、自分は老人の相手ではないと悟り、これはいかんと逃げ出した。

こうして刑徳は数十里も馬を走らせたころ、ちょうど役所の金を護送する人々に出会ったので、己の弓矢に頼ってなんと銀一千両を奪った。こうして刑徳がホクホク顔でいるとき、後ろから蹄の音が聞こえてきた。

「うん?誰だ?」と刑徳が後ろを振り返ると、なんとさきほどの老人に供をしていたやまあらしのようなに髪の毛を生やした子供が老人のラバに乗ってこちらにやってくるではないか。

「そこのもの盗り!どこへ行く?今奪ったものをおとなしく半分置いていけ」

これを聞いて刑徳は怒った。

「何をこしゃくな!お前はわしの弓の腕を知っているのか?」

「ふん!さっき見せてもらったよ。それがどうした?」

この餓鬼が、生意気なと怒った刑徳は、子供が何の得物も身につけていないのをみて、ここで餓鬼を驚かしてやろうと、すぐさま弓を引き、瞬く間に三本の矢を放った。ところがこの子供は三本とも手で掴んでしまったので刑徳はびっくり。そこで子供はいう。

「こんなもの貰っても仕方がない」

こういって子供は、手首にはめていた小さな鉄の輪をはずしぐるぐる回して「ほら!ほら!ほら!」と刑徳めがけてものすごい速さで投げてきた。こちら刑徳はあわてて飛んできた輪を弓で止めたが、バキッという音がしてなんと弓が真ん中から折れてしまった。これには刑徳、化け物が現れたかように怖り、そのすぐあとに自分の放った三本の矢を子供が自分めがけて投げ。ものすごい速さでヒュー!ヒューと左右の耳をかすめた。これに刑徳は気を失ったように馬から落ちてしまった。そこで子供は近くまで来て、まずは鉄の輪を拾い、それから馬の鞍に掛けてあった銀一千両が入った袋を下ろして肩に掛けようとした。このとき刑徳が気がつき、起き上がってそれを止めようとした。しかし、子供は刑徳が気がついて起き上がったことを察していたかように、急に振り向くと一蹴りして刑徳を倒してしまった。そして金の入った袋を持ってラバに乗せ、自分もラバに飛び乗り、刑徳に言う。

「お前みたいな技じゃ。誰も倒せないよ。じゃあ、これで」と言い残し、どこかへ行ってしまった。

これに呆然としていた刑徳は、我に返ると傷ついた体を引きずるようにして馬に近づき、やっとのことで馬に乗って自分のふるさとに帰っていった。

このときから、刑徳はこれまでの怖いものなしという考えをまったくなくし、急に人には親切になり、おとなしく小さな商いを始めたという。

「中国国際放送局」より

中国国際放送局

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