作者、元稹は中唐の詩人。幼い頃に父親を亡くし、母親の手で育てられました。非常に優秀で若くして科挙試験で進士より上の科目に、25歳で任官試験に合格します。この試験に首席で合格したのが7歳年上の白居易、白楽天です。ここから二人は縁を結び、友達付き合いが始まったようです。優秀な人が必ず順調に出世するとは限らず、政争に巻き込まれてしまいます。そして、元稹が左遷されて長安を離れることになりますが、この時に見送りに行けなかった白居易が、お詫びの気持ちと不変の友情を詩にしたのが前回紹介した、「八月十五日の夜禁中に独り直し月に対して元九を憶う」です。元稹は自分は左遷されても親友の白居易には都で活躍してもらいたいと思っていたことでしょう。なのにその白居易まで左遷させられたと聞き作られたのがこの詩です。タイトルの「左降」は左遷のことです。「殘燈」は油が無くなり、消えかかった灯火(ともしび)で、「幢幢」は、その灯が揺れて落ち着かない様子を表しています。「謫す」は官位を下げて遠くへ追放になる。せめる。とがめる。罪すると言う意味。「九江」は現在の江西省九江市あたりで世界遺産の廬山の麓の街です。「垂死」は瀕死、死に直面した状態を言います。「寒窓」は寒々としてわびしげな窓。冬の窓です。作者元稹はさみしいとか、悲しいとか自分の気持ちや白居易に対する気持ちは一言も言っていません。目の前の情景を詠っているだけなのですが、却って気持ちが切々と伝わります。白居易は月を観て元稹を想い、元稹は灯を観て白居易を想う。後世に名を遺した二人の詩人は、遠く離れていてもやはり親友なのだと感じました。
「中国国際放送局」より