蘇州扇子

2012-08-09

中国江蘇省の東南部に位置する蘇州は刺繍や絹織物で有名であるが、蘇扇と呼ばれる扇子の特産地でもある。蘇州の扇子は中国文化を代表する伝統工芸品として数世紀にわたり愛されてきた。蘇扇の種類は豊富だが、折扇、檀香扇、絹宮扇などが一般的に知られる主な品種である。

蘇州における扇子工芸は、宋時代(960-1279)にはじまり、当時は主に竹と絹で作られていた。貴族の女性しか持つことが許されず、扇子は富と地位の象徴であった。すぐに文化人の間で、詩歌を楽しむ際のアクセサリーとして扇子を持つことが流行した。蘇州は元代(1271-1368)、明代(1368-1644)には主要な扇子の生産地として栄え、清代(1644-1912)には豪華で優美な扇子が皇族の所持品となった。

折扇は、南宋時代につくられ始め、聚頭扇 撒扇、名でも知られ特に蘇州産のものは呉扇とも呼ばれた。複数の細い木製帯札を糸や針金でつなぎ合わせたものと、繊細な宣紙を互い違いに折ったものがある。主に竹を骨組みに使い、漆が塗られたものや、各種の象嵌など、百種類以上がある。宣紙の上に有名絵画が描かれた“画面扇”や白色、金色など単色の“素面扇”又、両面に刺繍が施されたものや、柄が染められた扇子などもある。

白檀の扇子は中国が誇る工芸品である。仰ぐたびに上品に香る白檀類の木材は、古くから扇子の材料として好まれた。“拉花”は骨部分に細かく文様を切り出す技法で、扇子を広げると繊細な模様が一斉に現れて華麗、豪華である。一万五千個以上の大小様々な模様がくり抜かれ、“天女散花”の風格である。“焼花”は、熱した鉄筆を用い下書きなしで紅楼などの故事を焼き付けて描く技法である。明るい黄土色の檀香木にこげた橙色の色が調和し、古風で上品な風格である。“画花”は、毛筆を使って絹がはられた扇面に彩色絵付けをするものである。蘇州の檀香扇は、特に海外からの人気が非常に高い。

絹宮扇は、最も高い扇子制作の技術を必要とする。一般の扇子と違い、絹宮扇は折りたたまず、長いハンドルが付いている。宮廷で、従者が皇帝を仰いでいた扇子に由来する。宋代(960-1279)に作られはじめ、明代(1368-1644)に広まった。ハンドル部分は高級木材や、竹、動物の骨、象牙などの天然素材で作られ、円形、六角形、長方形、楕円など様々な形がある。絹の表面には、書画、刺繍などが施され、山水、花鳥、人物、などが表現されて優雅で上品な風格であった。

中国の扇子工芸の品質は高く、国内外から高く評価されている。しかし80年代頃から人々の生活習慣は変わり、扇子に変わり扇風機やエアコンが使われるようになった。清代には百件ほどあった蘇扇工房も、今では王星記、雲軒の二つがかろうじて営業を続けているだけである。現在、蘇州で伝統的な扇子を制作する職人は数人しかおらず、すでに失われてしまった技術もあるという。機械生産の扇子が流通しているが、手工芸による扇子の品質は比べ物にならない。蘇扇は、中国を代表する工芸品の一つとして、保護、伝承されていくべき美術工芸品である。

北京旅游网

モデルコース
人気おすすめ