中国の昔話・「天の桃」

2018-07-08

正月には、よく大道芸人たちが町中で技や出し物を見せ、みんなを喜ばせたものだった。ある年の大晦日、この町中でこれからも芸を売らせてくださいという意味だろう。これら芸人たちは、例年のように役所の庭で技や出し物を役人たちに披露したものだ。

で、この日だけは役所にも町の人が入れるのだ。実は来た人が多すぎて、半分以上が入れなかった。役所では、役人やこの町のお偉方が階段の上で椅子に座りこれを見ている。

出し物が始まり、それはにぎやかだった。そのうちにある初老の男がやまあらしのような髪の毛を生やした子供を連れ、庭の真ん中に立った。子供は天秤棒で何かを担いでいる。そこで青い服を着た一番偉そうな役人が聞く。

「なんじゃ?今度はなにをみせようというのか?」

これに男がこたえた。

「はい。季節外れの果物を出して見せます。どんなものでもかまいません」

「うん?季節外れのものとな?まことか?何でも出せるというのか?」

「はい」

そこで、役人たちは相談し始めたのか、やがて一人が言い出した。

「これ!おまえ。この冬のことだ。では桃をだしてみよ」

これに見物人らはわいわいがやがや。そうであろう。今頃、桃があるわけがない。そこでみんなは、男と子供がいかに桃を出すのか興味深く見守っていた。

そこで、男は上着を脱いで、役人たちを恨むような声で言う。

「こんな寒いときに、なんと桃を出せとはな。もし出せなきゃあ、罰をうけるからな」

これに息子であるらし子供がこたえる。

「でも、父ちゃんはさっき、どんなものでもかまいませんといってしまっただろう?」

「そうだったな」

「だったら、桃を出さなきゃまずいよ」

男は暫く考えたあと「そうだ。いまも雪がのこってるから、桃などあるわけがない。仕方がないから天に登って桃を盗んでくるしかないな」

「え?父ちゃん、天に登るったって、そんなに長い梯子なんかないよ」

「仕方がないから、方術を使うんだ」

こう言って男は、子供が天秤棒で担いできた箱をあけ、一本の縄を取り出した。

この縄はかなり長そうで、男は縄を輪のように丸め、一方の先を掴むと、体を揺らして縄の先を天に向けて高く放り上げた。すると。どうしたことか、縄は天のほうにするする上がり、先のほうが何かに引っかかったかのように、縦にまっすぐに立った。

これをみた役人や見物人は驚きと喜びの声を上げた。そして、縄はなんと上のほうにどんどん登っていき、そのうちに雲の中に入ったようである。

もちろん、地上ではわいわいがやがや。そしてこれからどうするのかとみんなは黙ってしまったところ、この初老の男が子供にいう。

「わしはもう年だから、この縄で天に登ることはできん。おまえが登っていきな」

「ええ?おいらが?大丈夫かな?」

「お前だったら大丈夫さ」

そこで子供は、縄を両手で握ったがすぐには登らない。

「父ちゃんも、ぼけたね。こんな細い縄をつたって天に登れといっても、途中で縄が切れたら、おいらは死んじゃうよ」

「そう怖がるな。いくらお前がいやでも、わしは桃を出すといってしまったんだ。後悔しても始まらん。お前が天から桃を盗んできたら、役人さまは褒美として沢山のお金をくださるだろう。そしたらその金で将来嫁さんがもらえるぞ」

これを聞いた子供は、仕方なさそうに雲の上からたれてくる縄を手に巻くと、なんと虫である蜘蛛が糸を伝って行くようにするすると上に登り始め、見物人たちがあれよあれよと驚く中を、まもなく空の雲の中に消えてしまった。

こうしてかなりたった。役人や見物人たちは、やっぱり無理だったかとあきらめ、ひそひそと語り合いはじめたとき、不意に天からお椀ほどの大きさの桃が落ちてきたので、待ってましたとばかりに男はこれを受け取った。これに周りから喜びの叫び声がどっとあがった。

そこで男は、この桃を両手で挟むようにもち、落としてはいかんとでも言いそうな顔して役人の元へ持って行った。これを受け取った一番偉そうな役人、しばらく目を細めてみたあと、となりの役人に渡したので、他の役人たちも目を丸くして桃を見つめ、ひそひそ話し始めた。実はこの桃が本物かどうかは、齧ってみないと分からない。みんなの見ている前で、がぶりと噛み付くわけにもいかないので、、一番偉そうな役人は眉をひそめていた。しかし、他の役人はやがてこれは本物だと言い出した。

と、そのとき、それまでまっすぐに天から下がっていた縄が、不意に落ちてきた。これに男はびっくり。そして急に悲しみだした。

「なんということだ。天で誰かがわしのこの縄を断ち切ったぞ。これではわしの息子は、どうやって天から降りてくるのだ!どうしよう!」

これに役人や見物人も驚き、自分たちはなにもできないので、これからどうなることか、必死に見守っている。と、何かが天からドンという音がして地上に落ちてきてた。男がみると、なんとそれは息子の頭であった。これを見た男は泣きながらこの頭を両手でもち、「息子が桃を盗んだときに、天の桃畑の見張りに見つかったんだ」とわめいた。すると今度は一本の足が天から落ちてき、更に体の部分がばらばらになって落ちてきた。これに男は慟哭しながら、息子の遺骸を一つ一つ集め、これらを箱に入れて、驚いて固唾を呑んでいる見物人に言った。

「みなの衆、わしは一人息子との二人暮しですわい。息子はわしについてこれまで方々を回ってきました。今日はここで役人さまの言いつけに従い、天に登って桃を盗みに行きましたが、なんと、こんなことになるとは!!これから息子を手厚く葬ってやります」

こういって男は役人の前まで来た。

「役人さま方、わしの息子はあなた方の言いつけで天に登り、あなた方のために死んでしまいました。役人さま方がもし哀れだと思いなさるのなら、わしが息子を葬りますので、そのためにお金を出してくだされや。そうしてくださるのなら、わしはあなたさまがたを恨むようなことはしません。どうかお願いします」

これを聞いた役人たちは、急に責任を感じたのか、または天に登って死んだ男の息子を哀れんだのか、それとも、これから死んだ息子の亡霊が現れるのを恐れたのか、それぞれ思ったより多くの金を出し合い、この男に渡した。

と、この男、沢山の金が手に入ったのを見て急ににやっと笑い、息子のばらばらの遺骸が入っている箱のふたをコンコンと叩き、「これこれ!息子や、早く出てきな。役人さまがたが沢山の褒美を下さったぞ」と声を掛ける。

これに役人や見物人はまさかと目を見張っていたが、しばらくして箱が空き、やまあらしのような髪の毛を生やしたかの子供が元気に出てきて、役人どもにペコリとお辞儀すると、男と一緒に早足でどこかへ行ってしまったわい。

これを見た役人や見物人はあいた口がふさがらなっかとさ!!はい、はい!

「中国国際放送局」より

中国国際放送局

モデルコース
人気おすすめ