むかし、張華という気の優しい男がいた。
ある日、張華が山で草刈をしていると、近くで鳥の鳴き声がする。そこでその声のほうに行くと一羽の鶴が草の上にうずくまっている。
「あれ?こんなところでどうしたんだ?」と近寄って見ると、その鶴は一本の足が折れて血を流し、痛そうに鳴いている。それに人間が近寄ってきたので痛みをこらえ必死に逃げようとしている。
これを見た張華がいう。
「あれあれ!かわいそうに。怖がることはない。いま手当てしてやるからな」と懐から取り出した布を使って、鶴の怪我した足にそっと包帯をした。これには鶴は安心したのかおとなしくなった。そして張華が鶴を抱き上げたので、鶴は悲しい顔して張華を見上げている。
「だれだ!お前をこんなに痛い目にあわせたのは?」と張華が暗い顔していっていると遠くから数人の話し声が聞こえた。
「確かに仕留めたんだが、どこに逃げたのか?!」
これを聞いた張華、これはいかんと思い、怪我をした鶴も悲鳴のような声を出した。そこで張華は、あわてて鶴を草むらに隠したので、鶴のほうも人間の心を察したかのように、声も出さずにおとなしくしていた。そして張華は草刈を続ける真似をしていた。こうして数人の弓矢を手にした男たちが近づいてきた。
張華はこれを見て思った。
「はは潤オん。こいつらだな。確か金持ちの張仁義の手下だった。鶴を苦しめたのはこいつらだな!。ひどいやつらだ」
数人の男たちが張華に怖い顔して聞いた。
「おい!そこの奴!怪我した鶴を見かけなんだか?」
「鶴?知らないねえ!鶴がこんなところにいるのかい?」
「知らなきゃいいんだ!おい!仲間たち、どうしよう?ここには逃げて来ていないみたいだぜ!」
「仕方がねえ!ほかのところを探してみよう」
こうして怖い顔をした男たちは、どこかへいてしまった。しかし、張華は油断しなかった。やがてお日さまが西の空から落ちるのを待ってから、怪我した鶴を大事に家に抱きかえった。そして張華はその日からしっかりと鶴の面倒を見たので、一ヵ月後に鶴の怪我はよくなり、元気を取り戻した。そこで張華は鶴を放そうと思っていたが、どこからことが知れたのか、、地元の金持ちである李仁義が張華が鶴を飼っていると聞き、その日はかつて張華が会ったことのある数人の手下を連れて張華の家にやってきた。
「こら!張華!お前はわしの手下が射止めた鶴を隠していたそうだな!このもの知らずめが!今日はわしの鶴を取り戻しに来たぞ!早くわしの鶴を返せ!」
こう言って、張華がこれ答えないうちに、手下たちが家の中に入り込み、ものをひっくり返してかの鶴を見つけ出すと鶴をかごに入れた。これを見た張華は必死になって止めようとしたが、なんと手下の一人に殴り倒されてしまった。
そして李仁義はいう。
「はははは!これでわしも長生きできるワイ。鶴の肉を食えば長寿できるというからな。これはめでたいわい!ひひひひ!」
これを聞いた張華、なんというやつだ!仙界の鳥である鶴を食べるとは!何とかしてみせるとそのときは思った。もちろん、一ヶ月も一緒にいて、毎日面倒を見ていれば、鶴とも感情が生まれてくる。だから、鶴を食うと聞いて張華は黙っていられないはず。そこで翌日の夜半、張華は李仁義の屋敷に忍び込び、鶴を入れた籠を見つけると、「早くお逃げ」といって鶴を放してやった。こちら鶴、命の恩人に何度か首を縦に振ってお礼すると、空へ飛び立った。
次の日、籠から鶴が逃げ出したのを見つけた李仁義は怒り出し、「なんということだ!鶴の肉が食えるところだったのに。ふん!きっとあの張華という若造が逃がしたに違いない。ものども、あの張華という奴を懲らしめて来い!」と手下に命じた。
そこで手下たちは、すぐに張華の家に来たが、張華は芝刈りに出かけて留守。怒った手下たち、家の中をめちゃくちゃにひっくり返すと、今度は山に登って張華を捜しだし、なんと張華を滅多打ちにして気を失わせ、引き上げていった。
しばらくして気が付いた張華は、傷だらけの体を引きずって何とか家まで這って帰り、床に伏したまま動けなくなっていた。
次の日、張華が床で苦しんでいると、自分が助けた庭で鶴の鳴き声がした。これを聞いた張華は、何とか起き上がって窓を開けて庭を見た。そこにはかの鶴が羽を伸ばして鳴いており、なんとその後ろにはもう一羽の鶴が舞い降り、それには白髪の爺さまが乗っていた。これはきっと仙人さまだと思った張華、慌てて床から降りようとしたが体中が痛み出しどうにも出来ない。と、そのときには仙人はすでに家の中に入ってきていた。
「こ、これは仙人さま!」
「張華とやら。そのままでおれや。実はあれはわしの鶴でな。危ないところを助けてくれて礼を言うぞ」
「礼なんて、とんでもない」
「いやいや。それにしてもお前は気の優しい若者じゃな。ま、助けてくれたお礼として、いま、お前の怪我をなおしてくれよう」
「私の怪我を?」
「そうじゃ。床で静かに横になり、目をつぶっていなさい」
こういわれた張華は、言うとおりにした。そこで仙人は右手を、仰向けに寝ている張華の顔の上に差し出し、それを足の上までなでるよう手を運んでいった。すると張華は体の痛みが徐々になくなるような感じがした。
「もう大丈夫じゃ。起きてみなされ」
仙人がこういうので目を開けた張華が起き上がってみると、上半身の痛みがなくなっている。そこで床を降りてみると、下半身も痛みを感じなくなっている。これに張華は大喜び。
「仙人さま。痛みはすべて取れました。どうもありがとうございます。」
「いや、いや、礼には及ばん。そこで聞くが、お前は何がほしい?」
「え?」
「何かほしいものはあるかと聞いておるのじゃ」
「は、はい。えーっと。それでは、田畑を少しください。私は働いて幸せをつかみます」
「うん、うん。いい考えだ。それはよい」
「でも、大雨や日照りは困ります」
「よし、よし。お天気の方はわしに任せておけ」
このように張華と仙人が話していると、鶴が帰ってきたことをどこからか聞いたのか金持ちの李仁義が手下を連れて張華の庭にやってきた。
「おお!鶴はここにおったか!それに二羽もおるぞ!わっはっははは!これは儲かった!それものども!二羽の鶴をつかまえろ!」
そこで手下どもは鶴を捕まえにかかった。もちろん、二羽の鶴は手下どもに捕まらないように空中に飛びあがる。この騒ぎに仙人は外に出た。
「どなたじゃな?わしの鶴を捕まえようとされているのは」
これに李仁義と手下どもはびっくり。見ると仙人らしき老人が家から出てきたので、いくらか慌てた。
「あんたは?」
「私はこの二羽の鶴の主でな。そのうちの一羽がこの若者に助けられたので、今日はお礼に来たのじゃ」
「なんじゃと?鶴の主じゃと?」
「いかにも」
「では言っておくが、鶴を助けたのはこの李仁義じゃぞ」
「ほほう。鶴を救ったのはそこもと?」
「もちろん。だから、鶴を救った礼はわしにするべきじゃ」
「ほう。そうでござるか。これは面白いことになってきた.。おまえさんがそういわれるのであれば、こういたそう」
「なんじゃね?」
「わしは今日二羽の鶴を連れてまいったゆえ、あんたと張華がそれぞれ鶴に乗ってお日様の屋敷にゆきなさい。あそこには黄金がたくさんある。わしの鶴を救ってくれた褒美としてあそこにある黄金を差し上げよう」
これを聞いた李仁義は大喜び。
「じいさんよ。それは本当だな!」
「わしはうそはいわん」
「よし、決まった。早くそこへ行こう」
張華、これにびっくりし、仙人にきく。
「仙人さま。わたしは当たり前のことをしたまでのこと。黄金などいりません」
「ふん、ふん。お前は欲がなくてよい。が、あの金持ちと一緒にいくきなさい。黄金を少しもらってもお前にとってはおかしくはない」
「じいさん!何をそこでぶつぶついっとるのじゃ。はやくお日様の屋敷とやらへ連れて行ってくれ」
「そう慌てなさんな。しかし言っておくが、屋敷に長くおると大変なことのなるぞ。明日の朝のお日様が昇る前に必ず屋敷を離れるのじゃ」
「大丈夫じゃワイ」
李仁義はめんどくさそうにいう。
しかし、張華は素直に「わかりました」と答えた。
こうして張華と李仁義はそれぞれ鶴に乗ってお日さまの屋敷に向かった。やがて屋敷についたが、そこには仙人がいうとおり、黄金がいたるところにあった。これをみて張華はびっくり。しかし、自分の欲しい田畑は仙人がくれると約束したので、張華は黄金を上着のもの入れいっぱいに詰めただけで、鶴に乗ってそこを離れた。しかし、李仁義はちがう。
「わっはっはっは!これでわしはこの世で一番の大金持ちになれるぞ。もてるだけもらってやる!」と横に積んであった袋をいくつも取り、それぞれに黄金をいっぱい詰め込んだ。これら袋を背負い、また李仁義をも乗せた鶴は必死に飛び立つが、あまりの重さに体が傾き、乗っていた李仁義はなんとまたお日さまの屋敷に落ちてしまった。このときにお日さまが昇ってきたので、熱さのために鶴は引き返して李仁義を助けることも出来なくなった。おかげで、欲張りものの李仁義は屋敷の中で焼け死んでしまったワイ。
さて、鶴に乗って戻った張華は、持ってきた黄金で李仁義の土地をすべて買い取り、それを貧しい人々に分け与え、自分は働き者のお嫁さんをもらって幸せに暮らした。
また、この年からお天道様は、どうしたことか、とてもやさしく、おかげでどの家も豊作。みんなの暮らしも良くなっていったという。
え?仙人と鶴?やるべきことをしたので仙境に帰っていったのでしょう。
「中国国際放送局」より