中国の昔話・「牛の尻尾」

2018-07-22

むかし、湖南の通道県にトン族の人々が集まり住む吉祥村があった。村には聶という金持ちがすんでいて、財産も多く、かなりの土地を持っているくせに、ひどいケチで、人のためには一銭も出そうとはしないことから、村人たちからケチ親父と呼ばれていた。

ある年の秋。ケチ親父は十数人の村人を作男に雇い、山肌を開墾して畑を作らせた。それは大変な仕事で、一ヶ月半ですべてを終わらせるというもの。かなり無理なことだが、貧しい村人たちはそれでも一家を養っていくため、作男となって一生懸命働いた。しかし、ケチ親父がみんなに出す三度の食事は、家畜の餌みたいに粗末なもので、その上、東の空が明るくなる前に起こされて仕事に出され、夜は星が出るころまで働かされる。これに怒った作男たちは、ケチ親父の目を盗んでは山で寝たり休んだりしていた。

で、ケチ親父の屋敷にはアバオという少年がいて、実家の借金を返すために、幼いときから牛飼いとしてこき使われていた。このときは、ケチ親父、アバオに作男たちを見張らせるため、牛を山で放牧するよう言いつけた。これに作男たちは、いくらか警戒したが、そのうちにこの少年もひどい目にあっているの知り、またアバオはこき使われている作男たちに同情し、夜は作男たちと一緒に寝ていた。

と、ある日、寝不足である作男たちが、山で一眠りしようとすると、アバオが言い出した。

おじさんや兄さんたち。安心して休みなよ。おいらが見張っててあげるよ。もし、ケチ親父やその手下が見回りにきたら、おいらが鶏の鳴く声を真似るから、みんな起きて働けばいい」

これを聞いた作男たちは喜んだ。

「アバオ。じゃあ頼んだよ」とみんなは安心して寝た。

しばらくして作男たちは目を覚まし、ケチ親父がろくに飯も食わしてくれなく、みんな痩せこけてしまった話となった。

「おい。みんな!こんなことではあと一ヶ月もすると疲れ果て飢え死にしてしまうぜ」

「そうよ。そうだ。」

「何とかしないとだめだ」

「うん。でもな、腹が減ったよ、俺はうまい牛肉の料理がでる宴会に出たいよ」

「なに言ってんだよ。飯も腹いっぱい食えないというのに牛肉料理がでる宴会だって?お前夢みてるんじゃないか?」

この話にアバオも口を挟んだ。

「おじさんたち、宴会というのは豚肉や牛肉をたらふく食えることだろう?」

無邪気なこの問いにみんなは笑い出した。

「アバオ!それは間違いないけど。あのケチ親父は、牛肉料理どころか、牛の毛一本でさえ出してくれないさ」

これを聞いたアバオはしばらく考えて、言い出した。

「ねえ。みんなが心を一つにすれば、おいしい牛肉料理が沢山出る宴会に出られると思うんだけど。」

「なんだ?アバオ。お前に何か言い考えがあるっていうのか?」

「うん」と賢いアバオはかくかくしかじかと自分の計画なるものを言い始めた。これを聞いた作男たち。この少年にこんな知恵があったのかとびっくりしながらもこれに賛成し、翌日、アバオの言うとおりにやることにした。

さて、次の日、アバオと作男たちは、こっそりと包丁や鍋を持っていつもより早く出かけ、山奥でアバオの追ってきた牛の中から太ったのを選んで殺し、鍋を使って牛肉の煮込みを作ってみんなでたらふく食べた。

そしてケチ親父に言い訳するためアバオはお日さまが西に傾き始めたころに、牛の群れを追って屋敷に帰り、牛を檻に入れるとあたふたとケチ親父の寝起きしている母屋へやってきた。

「旦那さま!大変だ!旦那さま!大変だ」

この声にケチ親父はびっくり。

「なんじゃい!いったいどうしたというのだ?」

「一頭の牛が山の洞穴に入りこみ出てこられなくなりました!」

「なんじゃと?それは本当か?」

「本当です。旦那さま。うそはいいません」

「本当だな!」

「旦那さまが信じないのなら、いまから自分で見に行きますか?」

これを聞いたケチ親父、時は夕暮れだが、一頭の牛もなくしたくはない。そこでアバオと行くことにした。

「はやくそこへ案内しろ」

こうしてケチ親父はアバオについて山に入り、崖っぷちの小さな岩山に来た。みるとその岩の後ろの割れ目から牛の尻尾がでており、岩の前の割れ目から牛の頭が出ている。それも角、口と鼻しか見えない。

「いったいどうしたんだ?これは!」

ケチ親父がこういっているうちに岩の割れ目にはまってしまった牛が「モー!モー」と鳴いている。

「旦那さま。実はこうなんです。これはとても短い洞穴なんです。今日の午後、二頭の牛がどうしたことか格闘し始め、そのうちにこの一頭が逃げ出したのですが、それを追ってもう一頭がこの小さな岩山まで追ってきたんです。逃げ道をなくしたこの牛は前に小さな洞穴があるのを見て逃げ込んだのですが、穴が小さく頭は入ったものの、体が入らない。そこへ追ってきた一頭が、うしろからその牛の体に思い切りぶつかったので、その牛の体が洞穴にドンと入り、頭の前の方、つまり角、口と鼻が洞穴の前口から出てきました。こうして、洞穴の後ろには尻尾だけが見えるようになったのです」

「そうか」

「そうです。この牛はいまは身動きできなく、困っているんですよ」

と、このとき、牛の鳴き声がまた聞こえた。実は、この鳴き声は牛ではなく、近くに隠れている動物の鳴き声をまねるのがうまい作男の声なのだ。牛はみんなに食べられてしまい、これは頭と尻尾だけをのこして、ケチ親父を騙すために仕組んだ芝居がはじまっていたのだ。

いくらケチ親父でも、これが自分を騙す芝居だとは見抜けなかった。それもそのはず、牛の尻尾はどう仕組んだのか、まだ動いている。これを見たケチ親父は慌てた。そこでアバオがいう。

「旦那さま。実は牛を救おうとみんなが近くにいるんですよ」

「本当か。すぐに呼んでこい」

こうしてアバオがみんなを呼んだので作男たちはどこからか出てきた。

「おう!みんな来てくれたか。では手伝ってこの牛を助けてくれ。そうでないと、この牛は夜には狼たちに食われてしまうだろう。この牛が助かったら、今晩、いいものを食わしてやるから」

これを聞いて作男たちはにっこり。

「いいか、みんな。何とかしてこの牛を洞穴から引っ張り出してくれ。」

これを聞いた作男の一人が、牛の尻尾をつかんだ。そしてもう一人がその作男の腰を抱き、その後ろにもう一人が前の作男の腰を抱くという具合に、十数人の作男が鎖のように一列に並び引っ張り始めた。そして最後にケチ親父が一番後ろで前の男の腰を抱いて、みんなが牛の尻尾を引っ張ったのじゃ。

「いち、にーのーさん!」

「いち、にーのーさん!」

という具合に何回かみんなで力をあわせ引っ張ったとき、なんと牛の尻尾がプツンと切れた。

この弾みに作男たちはどっと後ろに倒れ、一番後ろにいたケチ親父も後ろにひっくり返った。作男たちは後ろに倒れただけですんだものの、一番後ろで引っ張っていたケチ親父は、自分の後ろに誰もいなかったせいか、勢いでころころと後ろにころがり、なんと崖から谷に落ちて、命を失ってしまったと。

はい。そういうことでした。

この話しはこれでおしまいですが、なんか後味があまりよくありませんね。いくらけち親父を懲らしめるといっても、なんと谷に落ちて死んでしまうとは、アバオや作男たちも思っても見なかったことでしょう。ちょっとやり過ぎと思われる結末ですね。いくらケチな親父でも、アバオや作男に乱暴働いたわけでもないのに、ね。

そこで、この林涛は、意地悪して次のようなものをつけました。

こんなもんです。

この弾みに作男たちはどっと後ろの倒れ、一番後ろにいたケチ親父も後ろにひっくり返った。こうして作男たちは後ろに倒れただけですんだものの、一番後ろで引っ張っていたケチ親父は、自分の後ろに誰もいなかったせいか、勢いでころころと後ろにころがり、なんと崖から谷に落ちて、命を失ってしまったと。

ここからが、林涛がつけた結末です。

これにはアバオと作男たちはびっくり。みんな怖くなって逃げ出した。ところが、谷底から助けを呼ぶ声が聞こえる。この叫び声にアバオは自分のしたことに後ろ目を感じ、夢中になって駆け出した。ところがまだ山の上、危ないところはどこにもある。慌ててしまったアバオ、無我夢中で逃げる途中、どうしたことが足を滑らし、崖から落ちていったワイ。また、怖くなって逃げ出した数人の作男もアバオと同じように谷へ落ちてしまったそうな。

これはいけなかったかな!?ひどすぎましたね。どうせ、本文は前のとおりですからご心配なく。

「中国国際放送局」より

中国国際放送局

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